Without Him
2015年だったと思う。当時の会社の代表が、家庭の事情でそろそろ辞めたい、と切り出した。
会社は15年続いていた。共同出資した6人のうち、彼が代表として会社をまわし、別の友人が営業を、わたしが技術全体を見ていた。あとを引き継ぐのはわたしだろう、というのが規定路線だった。誰に言われたわけでもないが、皆がそう思っていた。
少し時間を巻き戻す。
20代の前半、最初に学生バイトで入ったベンチャーが行き詰まって解雇された。次のバイト先を探していたとき、友人の一人が、自分の働き口を紹介してくれた。大森の受託開発会社だった。
そこで彼に出会った。少し年上の社員で、いまでいうフルスタックエンジニアだった。面倒見がよく、コードが書けて、怠惰で、人に丸投げするくせに最後は自分でどうにかする。出会ったことのない人種だった。性格が似ていたのかもしれない。ほどなく意気投合して、頻繁につるむようになった。
その会社はJava推しで、Perlに傾倒していたわたしは肩身が狭かった。それを愚痴ったとき、彼が言った。じゃあ自分たちで会社作ろうよ、と。
彼に人徳があったのだろう。あっという間に人が集まった。6人で共同出資して、会社ができた。彼が代表になった。皆くせは強かったが、全員がひとりで食えるレベルだった。わたしを除いて。
大抵のベンチャーは数年で解散する。それが15年続いたのは、運もあるが、初期メンバーが優秀だったのもあると思う。何年もやっているうちに役割が固まって、わたしは気づくと技術全体を見る立場になっていた。代表は良い意味で怠惰で、丸投げ体質だった。任される側は鍛えられた。
話を戻す。彼が辞めると言った。
一通り悩んで、そこでわたしも降りた。引き継ぐべきだという声がなかったわけではない。だが、彼が辞めるなら、わたしが残っていた理由は消えた。
もうひとつ、外の世界を見てみたかった。20代と30代を、小さな会社にこもって過ごした。自分の実力がどれくらいなのか、よくわからないまま。コードはそこそこ書ける。PMとしてプロジェクト全体を回した経験もある。それが外でどう通用するのか、試してみたかった。
その後、会社は同僚が代表を継いだ。ほどなく経営は傾いて、別会社に吸収された。
責任を感じなくはない。別の選択肢があったかもしれないとも思う。引き継いでいれば違ったかもしれないし、違わなかったかもしれない。
ただ、後悔はしていない。当時の代表がいてできた会社だった。彼の人徳と、彼の丸投げ体質に乗っかって、わたしは技術屋として育った。彼がいない会社は、もう違う会社だ。誰がやっても同じだった気がする。
あれから10年が経った。外の世界はそれなりに広くて、わたしの実力は思っていたほどでもなく、思っていたほど低くもなかった。だいたいそんなものだ。