Bad Blocks
友人に頼まれた。押し入れからCD-Rが1000枚近く出てきて、ディスクが死ぬ前にデータにしておきたいという。中身は、と聞いたら、古いゲームだと言う。それ以上は聞かなかった。向こうも言わなかった。
CD-Rドライブが世に出た頃、欲しかったYAMAHAのドライブは10万円を超えていた。焼きに失敗すればコースターが1枚増える。メディアも1枚500円くらいした気がする。記憶は怪しいが、気軽に潰せる値段じゃなかったのは確かだ。書き込み中はマシンに触るなと言われ、息を殺してプログレスバーを眺めていた。余計な常駐ソフトが一つ動いただけで書き込みが破綻する。不要なアプリを全部落として焼く専用モードにするフリーウェアまであった。とにかく繊細だった。いまは外付けのDVDドライブで、別の作業をしながら片手間に焼ける。隔世の感がある。
メディアには派閥があった。TDKのタフネスコートか、太陽誘電か。どの色素が、どのコートが長持ちするか、みんな適当な根拠で言い争っていた。あれから20年、いま答え合わせをしている。きれいに読めるディスクもあれば、もう逝っているディスクもある。だいたい、値段の高かったやつが生き残っている。安物は当時からすぐ読めなくなったので、わたしは高いメディアしか買っていなかった。
当時のコピーガードに、わざと壊れたブロックを書き込む手があった。誰かが言っていた。あれは工業規格的にはもうCDじゃない、データの入った円盤だと。レッドブックに違反した、CDの顔をした別物。普通のソフトでは吸えなかった。
DiscJuggler。CDRWIN。CloneCD。今や誰にも通じない名前たち。最後にはCloneCDが、わざと壊したブロックごと吸い出して、焼くときに傷まで再現してくれるようになっていた。どうやっていたのかは知らない。傷を傷のまま写し取る、という発想だけ覚えている。
で、その友人は、いまドライブにディスクを突っ込みながら、吸い上げから仕分けまでまるごとClaudeに任せているらしい。読めないやつをどう宥めて何かを吐かせるかも、Claudeに訊いている。8割くらいはちゃんと読み出せているという。
20年前、これらの円盤は、誰にもコピーされないように、わざと傷をつけられた。そして20年後、コピーを阻んでいるのは、誰かが設計した傷じゃない。時間が勝手につけた傷のほうだ。いちばん手強いコピーガードは、メディアの経年劣化だった。