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Not Manufacturing

プロジェクトがうまくいったとき、何が残るか。

理想を言えば、何も残らない。クライアントの課題が消えて、請求書が気持ちよく支払われる。それだけ。成果物なんて本来はおまけだ。

でも多くのPMは、ITを製造業だと思っている。仕様書があって、設計書があって、コードという「製品」を納品する。検品して、はい完了。そういうメンタルモデルで動いている。気持ちはわかる。目に見えるものを納品したほうが、仕事をした感じがする。

厄介なのは、エンジニアリングに誇りを持っている人ほどこの罠にハマりやすいことだ。技術的に美しいものを作りたい。堅牢なアーキテクチャを設計したい。その気持ちは本物だし、わたし自身そういう衝動がある。でもそれは「いいものを作る」であって「課題を解決する」とは微妙にずれている。

クライアントが本当に求めているのは、自分の問題が消えることだ。極論すれば、コードを一行も書かずに解決できるならそれが最善で、その場合「成果物」は存在しない。でも客は満足している。これが製造業の感覚だと理解しづらい。

考えてみると、これは水商売の構造に似ている。

優秀なキャストはシャンパンタワーを「ねだる」わけではない。客が上機嫌になって、自分から「入れようか」と言い出す空気を作る。客は高い酒に金を払っているようで、実際には「いい気分でいられる時間」に払っている。ボトルは残るが、それは本質じゃない。

ITも同じだと思う。ソースコードやドキュメントは残る。でもクライアントが本当に買っているのは「問題がなくなった状態」であって、納品物そのものじゃない。

この視点を持てるかどうかで、プロジェクトの進め方はかなり変わる。何を作るかの前に、何を解決するかを考えるようになる。要件定義の粒度が変わる。「これ本当に作る必要ある?」という問いが自然に出てくる。

わたしもまだ、きれいなコードを書きたい衝動と、課題解決に徹する冷静さの間で揺れている。たぶんずっと揺れ続ける。