Don't Drop It
命落としてもPCは落とすな。
上場企業にいた頃、半ば冗談、半ば本気でそう言われていた。PCを紛失すると始末書では済まない。インシデント報告書が回り、CSIRTが招集され、暗号化の有無、リモートワイプの可否、端末に保存されていたデータの棚卸し。1台のノートPCのために、数十人が数日を費やす。
台風で部下のPMの自宅が浸水したことがある。連絡が取れたとき、情シスが最初に聞いたのは「PCは無事ですか」だった。本人は憤慨していた。家が水に浸かっているのに、最初の一言がそれか。気持ちはわかる。ただ、命があるから聞いているのだ。命がなかったら、PCの話はしない。順番が歪んで見えるのは、結果を知っているからだ。
PCは無事だった。電源アダプタが水没して使えなくなっていた。後日、備品破損の始末書を書けという話が降ってきた。本人は「マジかよ」と言っていた。台風で家が浸水して、書くのが始末書。大企業とはそういうところだ。
大企業の端末管理は大半がWindowsで、IntuneやらSCCMやらが幅を利かせている。数千台を一括でポリシー制御する世界だ。情シスの苦労は想像に難くない。
いまは自分の会社でMacBook Airを全員に貸与している。すべてにSimpleMDMを入れている。ABM(Apple Business Manager)と繋いでおけば、箱を開けてWi-Fiに繋ぐだけでプロファイルが降ってくる。MDMの世界にはJamf Proという王者がいるが、わたしの規模には要らない。やりたいことだけやらせてくれるツールがいい。
先日、退職者からPCの返却がなかった。連絡がつかない。入れておいてよかったと思いながら、リモートでロックをかけた。翌日、入れ違いで郵送されてきた。肝を冷やしたのはこちらだけだった。
あのPMは元気にやっている。よい上司に恵まれたせいで始末書は書かなくて済んだらしい。