Tea Ceremony
6年ほど前、緩いWebの世界からエンタープライズに転職した。大手でPMをやってみたかった。
異世界転生したらこんな感じかと思った。
チケットを切って、優先順位をつけて、手が空いた人が取る。必要なときにリリースする。それがわたしの知っている開発だった。だが転職先で見えた世界はまるで違った。世界はゆっくりだった。
まず、わたしのこれまでの経験が存在しないことになった。チケット駆動の開発は、ウォーターフォールかアジャイルかの世界においてはnullだった。どちらでもない。ゼロですらない。存在しない。
アジャイルはアジャイルで、スクラムマスターを配置してスプリントレビューやレトロスペクティブといった儀式を正しく行うことが作法とされる。まるで茶道だ。いや、茶道を軽んじているわけではない。型を守ること、その精神性に意味があるのだろう。ただ、茶を点てることが目的なのか、茶を飲むことが目的なのか、わからなくなる瞬間がある。
ウォーターフォールはウォーターフォールで、膨大な設計書を作成してから実装に入る。実装というより転記に近い。そこにプログラマという職種はなく、設計者か実装者かのゼロイチがあるのみだった。
しばらくPMをやった。経験はnull扱いだし、コードなんて書けない体裁だったが、自分で手を出さない修行にはなった。仕事を消し飛ばしてしまう怠惰な性分が、なぜか顧客にはウケがよかった。ほどなくアカウントマネージャーに上がった。
飽きて辞めた。点てるだけでは足りない。やっぱり飲みたかった。