Pipe Chair
キャリアが始まる前の話だ。
10代だった。エンジニアとして給料はもらっていたが、キャリアには数えていない。大手の子会社の子会社、できたばかりの小さな会社に開発アルバイトとして雇われた。秋葉原で働いていた大学の後輩からの紹介だ。思えば彼がいなければ、わたしはITにいなかった。
オフィスは湯島にあった。秋葉原まで徒歩圏内。オフィスといったが、マンションの一室だ。見栄っ張りの社長はそこをオフィスだと言い張っていた。
iモードの全盛時代だった。新機種が出るたびにみな競って欲しがった。いまも昔も、あれはテクノロジーのデバイスではない。コミュニケーションを支えるデバイスだった。人は人と繋がりたくて端末を買う。それは変わっていない。
HDMLを書いていた。今で言うマッチングサイトの走りのようなものを作っていた。マンションの一室で、パイプ椅子に座り、秀丸でコードを書いていた。エルゴノミクスチェアもIDEもない。パイプ椅子と秀丸。それで十分だった。
あの後輩とはその後、最初の会社の立ち上げに参画してもらい、長い縁が続くこととなる。IDCのラックを丸ごと買い上げたのも彼からだ。紆余曲折はあったが、ふたりとも今日まで生き残っている。
10代のわたしをITに引き込んだ人間が、20年以上経ったいまもわたしにサーバーを売りつけている。