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Starfire

以前Enterprise 4500のことを書いた。実はあの上にはもっと化け物がいた。

Sun Enterprise 10000。コードネームStarfire。1/4ラックどころの話ではない。筐体そのものが1ラックだ。最大64基のUltraSPARCプロセッサと64GBのメモリを積める。動的にドメインを分割して、1台の筐体の中で複数のSolarisインスタンスを走らせる。いまVMwareがソフトウェアでやっていることを、ハードウェアで実現していたようなものだ。フル装備なら億を超える。

4500もそうだが、この手のエンタープライズ機は稼働中にCPUボードを引き抜いて交換できる。ホットスワップだ。x86の通常機材では考えられない。電源を落とす必要がない。部品が壊れたら動いたまま交換する。止められないシステムのために、止めなくていいハードウェアが作られていた。いまではクラウドで冗長化すれば済む話だが、当時は1台の信頼性にすべてを賭けていた。

秋葉原のあるUNIX専門店の片隅で、一度だけ売られているのを見たことがある。

100万円だった。いやおかしいだろう。こいつは新品なら億だ。中古で100万。なけなしの金をかき集めて買うか本気で悩んだ。筐体のサイズを見て、搬入経路を考えて、自宅の床荷重を考えて、電源が単相100Vでは動かないことを悟って諦めた。電源工事、床補強、搬入業者。マシンより周辺コストのほうが高くつく。

あれから四半世紀。先日注文したMacBookは、Starfireよりはるかに安くて速い。設置工事もいらない。ムーアの法則はマルチコアというチートを使いながらも実現されてきた。もっとも、この莫大なコンピュータリソースでやっていることといえば、ブラウザとエディタを開いてAIにコードを書かせているだけだが。

あのとき秋葉原の片隅で出会ったあの子は、いまは鉄くずとして溶かされて、どこかのスマホの部品になっているのだろうか。億の価値があったシリコンと銅が、数万円のデバイスの一部として第二の人生を送っている。本人はたぶん知らない。