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Margin Call

新人が泣きそうな顔でSlackに書いてきた。「すみません、もう少しかかりそうです」。

見積もりは5日だった。PMに聞かれて即答したらしい。仕様は確定している。割り込みは入らない、レビューは一発で通る、5日で出せる、はずだった。7日かかった。

目に見えない通貨がある。信用残高と呼んでいる。大きな組織ほど、この残高で立ち位置が決まる。技術力でも実績でもない。「この人に任せれば終わる」。その信用が、発言権になり、裁量になり、ポジションになる。

遅れると残高は確実に減る。減るのは一瞬、積むのは年単位。一方で、早く終われば「あの人は手が早い」という評判になる。残高は増える。同じ作業量でも、9日と宣言して7日で終わるのと、5日と宣言して7日かかるのでは、結果が真逆になる。

新人を呼んで話した。マージンを乗せろ。水増しとは違う。最悪を予測するのだ。仕様が揺れる。レビューが戻る。別の急ぎが割り込む。それらは「起きるかもしれないこと」ではなく、必ず起きることだ。織り込んだ見積もりは水増しではない。精度の高い予測と呼ぶ。

「でも、多めに言うと実力を疑われませんか」。わかる。わたしもそう思っていた。逆なのだ。

新人はその後、見積もりにバッファを入れるようになった。彼の信用残高はこれから積み上がるだろう。

ちなみに、信用残高は貸し借りもできる。それはまだ教えていない。