Lost Hometown
名前も知らない、顔も知らない親友がいた。
2000年代初頭のオンラインゲームでの話だ。いまでいうSAOのような世界がそこにあった。ガチャのない定額課金。1レベル上げるのにはりついて1ヶ月はかかる、マゾの極みのようなゲームバランス。赤ネームに襲われ、狩り中のデスペナで数日分の経験値稼ぎが無に帰しても楽しかった。だからこそ入り浸った。
ログインすればwisが飛んでくる。狩りをしては雑談をし、街の隅っこで雑談だけで一日が終わった日もある。キーボードの向こうにいる誰かの本名も顔も知らない。でもログイン時間が被れば毎日会う。リアルの友人より長い時間を過ごしていたかもしれない。
いまでこそ粗いポリゴンの景色だが、友人たちと開拓するのは冒険だった。あのとき確かに、そこにコミュニティがあった。SNSという言葉が生まれる前に、わたしたちはすでにソーシャルの中にいた。
まだゲーム自体は続いているらしい。懐かしくなってログインしてみた。アカウントはとうに消えていたので、新規で作った。
別のゲームになっていた。
マップは全部変わり、UIも変わり、あの日見た景色はどこにもなかった。ゲームの名前とシステムの残骸だけが残り、そこにあるのは小刻みな脳内報酬に最適化された別の何かだった。いまのゲームはどれもそうだ。心理学にもとづいた設計で可処分時間を奪い合い、出会いやトラブルを避けるために人と人の距離は意図的に遠ざけられている。効率的で、安全で、よくできている。そののどかさは、もうどこにもない。
建物の名残はある。でも記憶と一致しない。故郷を失うとはこういう感覚なのかもしれない。