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Lost Bus

PCパーツの整理をしていたら、古いHDDが出てきた。3.5インチの、ずっしりとした金属の塊。ラベルに走り書きしたメモが、薄く残っている。

読みたい、と思った。

裏返してコネクタを見て、ああ、と声が出た。68ピンの独特なかたち。SCSIだった。Ultra160。

2000年代初頭、SATAが出る前夜のころ。まだIDEの平べったいリボンケーブルがマザーに刺さっていた時代に、わたしはSCSIにはまっていた。本気で速度を出したいならSCSI、というのがわたしの周りの空気だった。Ultra160のディスクを買って、システム用に積んでいた。出てきたのは、たぶんその頃のものだ。

同じ頃、RAIDにもはまっていた。当時のRAIDの主流もSCSIで、それは業務サーバの世界の話だったが、有名なコントローラのIDE版が発売されたとき、わたしは秋葉原まで買いに走った。RAID5は憧れで、RAID1やRAID6は贅沢品だった。アレイを組む夜は楽しかった。HDDを4本並べて、ケースを開けたまま、ベンチマークの数字を眺めている。あの頃のわたしは、ストレージが速くなれば世界が良くなると本気で信じていた。

しばらくしてSATAが出た。あのシンプルなケーブルを一度見てしまうと、68ピンの太いリボンとは自然と距離ができた。ケースの中が広く見えた。

少し遅れてサーバ側にもSASが出た。SCSIのコマンドセットはそのままに、配線だけが細くなって、SATAと共通の小さなコネクタになった。SASのHBAにはSATAも刺さるが、逆は通らない。そこからサーバストレージの主流は一気に入れ替わって、パラレルSCSIは新製品から消えていった。手元のUltra160は、ちょうどその一歩手前のディスクだ。

読むには、まずPCIのSCSIホストアダプタが要る。中古市場ではまだ拾える。読むだけなら帯域はどうでもいい。問題はその先だ。そのカードのドライバが動くOSが要る。aic79xxやsym53c8xxといった名前は今のカーネルにもまだ残っているが、いつ消えてもおかしくない。動くOSが入るマザーが要る。マザーが要るならCPUも電源もケースも要る。連鎖は深い。一度足を踏み入れたら、抜け出せない。

諦めた。

SCSIの規格は、最後まで複雑だった。Narrow、Wide、Ultra、Ultra2、Ultra160、Ultra320。50ピン、68ピン、80ピンのSCA。LVDとHVDは見た目が同じコネクタで電圧だけ違って、間違って繋ぐと壊れる。ターミネータの位置で、動いたり動かなかったりした。あれはもう、失われたナレッジだ。

そしてRAIDは、いつしかオンプレの話になった。RAIDボードという商品も、もう店頭では見ない。サーバ側もマザーのBIOS管轄で、設定画面のなかで淡々と組まれる。クラウドでなにかを作るとき、ストレージの冗長性は前提として与えられている。S3に投げれば、舞台裏でなにかが冗長化されている。RAID5かRAID6か、Erasure Codingか、わたしはもう知らない。たぶん、知らなくていい。

HDDはしばらく机の上に置いていたが、片付けた。眺めているうちに、ふと気づいたからだ。これは、いつだったか憧れのRAID5を組んだときの1本かもしれない。フォーマットはたぶんNTFSだ。だとすれば、残り3本がどこにあるのかも、もう思い出せない。1本だけでは、何も読めない。

当時の自分が書いたコードが入っているはずだ。読めなくて、たぶんよかった。