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Things Break

IDCは落ちない。そう信じていた。

冗長電源、無停電電源装置、ディーゼル発電機。「災害時でも止まりません」。営業資料にはそう書いてあったし、わたしもそれを信じて大手企業のハウジングを請けていた。10年ほど前、都内某所の大手財閥系IDCでの話だ。

落ちた。

商用電源から非常電源への切り替え時に、ヒューズが溶けた。切り替えるための仕組みそのものが壊れた。冗長化の接点が、単一障害点だった。すべての電源が落ちた。

IDCのフロアに着いたとき、異様な光景が広がっていた。スーツ姿の人間がサーバルームに集結している。ふだんここにいるのはTシャツにカーゴパンツのエンジニアだ。スーツは「説明する側の人間」で、それがこれだけ集まっているということは、説明しなければならない相手がそれだけいるということだった。修羅場の空気は服装でわかる。

電源は二重化される。サーバも二重化される。STPでスイッチも冗長化できる。でもそのすべてが、同じ建物の中にある。今回は電源だけで済んだが、建物ごと落ちたら、冗長化は意味をなさない。

頭ではわかっていた。ディザスタリカバリの教科書には「拠点をまたげ」と書いてある。でも「本当に落ちる」を経験するまで、それは教科書の文字でしかなかった。

あの日以来、「落ちない」という言葉を額面通りに受け取れなくなった。落ちないのではなく、落ちる確率が低いだけだ。そして確率が低い事象は、十分な時間があれば必ず起きる。

拠点をまたいだディザスタリカバリは、コストがかかる。面倒だし、テストも難しい。でもヒューズ一本で全部止まる世界に、わたしたちはいる。