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One More Thing

ジョブズが亡くなった日のことは覚えている。

ITのヒーローだった。漏れ聞こえてくる人柄は、一緒に働きたいとは思えないものばかりだった。エレベーターで乗り合わせた社員にプロジェクトの説明を求め、答えられなければその場でクビにしたという逸話がある。真偽はわからない。ただ、自信満々でわがままで、すべてをひっくり返して前に進んでいく姿は、画面越しでも凄みがあった。

最後に流出した写真は、痩せ細った姿で歩くものだった。もう長くはないと、誰もがすべてを察した。

2011年10月5日。Appleのトップページが変わった。製品の写真もリンクもなく、ジョブズのモノクロの顔写真だけが表示された。あのAppleが、売上に直結するトップページを丸ごと喪に服した。

当時わたしがいた開発会社で、信心深くもないおちゃらけた仲間たちが黙祷していた。普段はくだらない冗談ばかり言っている連中だ。それが黙って画面を見ていた。ジョブズの製品を使っていたから悲しいのか、ひとつの時代が終わったから悲しいのか、たぶん本人たちにもわからなかったと思う。

あれからもうずいぶん経つ。ジョブズがいなくなったAppleは順調に利益を上げている。売上は過去最高を更新し続けている。ただ、あのキーノートの最後に「One more thing」と言われて心臓が跳ねる感覚は、もうない。